

しっとりしていて粉っぽくなく飲み物がなくても美味しく食べられるのが、ゴンドラのパウンドケーキ。「パウンドケーキならゴンドラ」といわれるほど熱烈なファンが多い。
創業は昭和8年。二代目のオーナーシェフ細内進さんは昭和36年にスイス国立リッチモンド製菓専門学校をアジア人で初めて卒業した人。モットーは「知られているケーキをより美味しくつくること」だ。
パウンドケーキは小麦粉に砂糖、卵、バターを加えて焼く基本的なバターケーキ。細内さんは幼いころから父親の仕事を見て育ち、微妙な味加減の奥伝を身体で受けとめて覚えこんだという。先代の頑固さを受け継ぎ、品質のよい素材使った手作りにこだわっている。
父子二代の職人気質は三代目の細内さんの息子へも伝わり、フランスやドイツ、ベルギーで修業した後、ゴンドラの伝統の味を父とともに守り続けている。
フランスのベイスという最高級のチョコレートを使ったほどよい甘さのショコラゴンドールや、刻んだ砂糖漬けのオレンジを生地に混ぜて焼いたオレンジケーキも絶品だ。
岸 朝子 選
『東京 五つ星の手みやげ』(東京書籍・2009年11月25日)
ゴンドラさんのお菓子は幼い頃からの深いおなじみ。というこは、私の母がこのお菓子をいかに愛したか、でもあるのだ。靖国神社をへだててすぐ近くに住んでいた私たち母子は、嬉しいことがあっても、ちょっと悲しくても、何の理由もないときでも、よくゴンドラさんにお菓子を買いに行った。そしていつもこの味で最上の機嫌になってしまうのだった。―その頃からかれこれ三十年、私たちはずっと、ゴンドラさんのお菓子を愛し続けてきた。
とくにパウンドケーキに惚れている。洋菓子のいちばん基本で、だからこそいちばん難しいのではないかと思われるこのお菓子では、ゴンドラさんの作る味にかなうものをまだ食べたことがない。ときどき新しい店、ほかの店のお菓子に浮気をしても、やっぱりゴンドラ、と”原点”に戻ってくる。
この頃よく売れるので数を作らなければならず、そうするとボールの大きさが変わって微妙に手加減が違ってくる・・・・・・というようなお話を伺って、私はとても感心する。特別に贅沢なバターを使わなければ気が済まない、しかもバターの製造年月日をちょっと含んでみてすぐ正確にあててしまう。そんなご主人細内善次郎さんの明治職人気質に敬服する。
私が子供だった頃、お店でよく見かけた腕白少年が、いまは立派な跡つぎとしてお菓子づくりに専心する。このことにも私は感動してしまう。幼いうちからお父さんの仕事を見て育ち、微妙な味加減の奥伝を体で受けとめて覚え込んだ。文字どおり父子二代で築き守られているお菓子の味。やがてお孫さんもお菓子の仕事をするかもしれない。
秘伝というのは結局、頑固なほどに「ちゃんとした」作り方をするという、つまり配合や火の具合以前の、人生観なのだ。と、このパウンドを食べるたび、「いい仕事をして生きて行くこと」の意味を教えられるような気がする
三宅菊子

ゴンドラの美味は、オーナーシェフの細内進さんのセンスと情熱の賜物。最高傑作はもちろんパウンドですが、その姉妹にあたる焼き菓子は、もっと気軽でコンパクトなもの。ギフトにはもちろん、ふだんのティータイムにもぴったりです。
焼き菓子の詰め合わせには、フランス、スイス、ドイツなどヨーロッパ菓子が勢揃い。まるで焼き菓子のEU(欧州連合)といった感じですが、どれも本場の味に細内流の一工夫が加わり、ゴンドラならではの新しいおいしさになっています。
焼き菓子の原料は小麦粉、砂糖、卵、バターが基本で、とてもシンプルですが、配合やちょっとした泡立て方などで、みごとに異なった表情を見せてくれます。
たとえば、ガトーブルトンは隠し味のラム酒のおかげで、バターのコクが豊潤なのにさっぱり味という不思議な仕上がり
フィナンシェは生菓子タイプで、半生菓子タイプで、配合の妙によって基本材料の素朴さ優美な味覚世界になっていて、ソフトな味わいとフレッシュバターのミックス加減が素敵です。
ほかのお菓子たちも、アーモンド、くるみ、アプリコット、フィグ(いちじく)などの香りや歯応えをアクセントしたり、生地の弾力を楽しんだりと、小さな玉手箱のように楽しみがぎゅぎゅっと詰まったものばかりです。
いずれも決して派手なお菓子ではありませんが、食べたあとの余韻がそれぞれ深く心地よく残り、いわば大人向けの味わいになっています。いままで各種のお菓子を食べてきた方々にこそ、ぜひ味わっていただきたいと存じます。
取り合わせるお茶はコーヒーでも紅茶でもお好み次第。日本茶とも合いますのでお試しください。お茶で口を清めてから、お菓子をいただき、最後の余韻までしっかり噛みしめる―そんなふうに楽しむと、いっそうおいしく味わえると思います。
エッセイスト、フードジャーナリスト
向笠千恵子